彼南と僕は幼馴染であり、彼南はどうだか知らないが、
僕は親友だと思っていた。ずっと。それなのに。

彼南は鈍くさくて、おっちょこちょいで、
なにをさせても全然で、
よくいたずらをして、泣かせたりしたけれど、
本当はそんなつもりなんてなくて。
信じてくれなんて今更言えないけれど、
彼南はずっと悩んでいたようだ。
僕が、コンプレックスの原因だったのだ。
謝っても償いきれない、
彼南の闇を、みてしまった。
それでも。
それでも。

高校3年の、選択授業の、美術の時間に、
見てしまった、彼南のきもちを。
それは、僕の敗北でもあった。
できない、と、いう、敗北だった。

絵本製作という卒業課題で、
彼南は、
絵本の登場人物に、
彼南と、僕と、咲良を選んだ。

絵本の中で彼南は、教室に座っていた。
教室の、ざわめきのなかで
彼南はひとりだった。
ひとりぼっちで、みんなのしゃべりを黙って聞いていた。
気付くと、虚無の空間にいた。
まわりにはだれもいない。
ただしろいだだっぴろい空間に、
ただ一本の道があった。
彼南は歩くことにした。
だんだん歩きつかれて、淋しくなってきた。
みんなはどこにいるんだろう、さっきまで教室にいたのに、と
みんなを呼んで見るが返事は無い。
遠くに、見覚えのある人影が見えた。
死んだ幼馴染の咲良だった(殺すなよ・・・)。
友達といっしょにいる。
知らない友達と。
そこで彼南はこういわれる。
「みんなの姿が見えないのは
あなたが見ようとしていないからよ。」と。
その後いろんな人から
いろんなことを言われ、授かる。
話の結末は、
彼南は教室にいて、みんなに机を囲まれていて、
「おかえり。」と
笑顔で迎えられるのだ。
僕は胸がいっぱいになった。

僕は彼南に告白をした。
頭の中が、彼南でいっぱいになって、
とてもじゃないけれど仕事なんかできなくて、
会いたくて会いたくて仕方が無くて
とうとうやってしまったのだ。
返事はすぐにはなかった。
そこで少し冷静になれた。
あの、困ったような顔で。
第一声はこれだ、
「だって、螺旋は僕のことがきらいだったじゃないか」

驚いた。
そんなふうに思われていたことに。
彼南は、このながいながいあいだ、
ずっと、
仕事中も、学校にいても、
ずっと、
そんな気持ちで自分といたのだと。
そんな気持ちで、自分と黙っていてくれたのだと。
このときほど、
自分が傲慢で、情けない奴だったのだとおもいしらされたことはない。
それでも。
それでも返事をくれるというので
愚かな僕は、その一言を待った。
いつまでも待った。

ながいながい時をかけて、
彼南は返事をくれた。
彼南の正直な気持ちをもらえた。
義務とか、同情とか、
そんなのじゃない彼南の気持ちを。

嬉しかった。
歓喜の瞬間だった。
僕達は、
僕たちのからだの異変に気がついた。
成長しないはずの僕たちが、
大人に慣れたのだ。
僕は、少年から、青年に、
彼南は、母親のような女性になった。
びっくりした。
茉莉になにをされるか、
内心びくついていた僕らを
彼女は、赦してくれた。
黙って、笑顔で。
本体にもみとめられたのだ。
僕達は、
愛し合ってよいのだと。
僕達は、
生きていてよいのだと。

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